フランスとスイスの国境に横たわる、レマン湖。
そのフランス側に在る美しい村、イボワールを訪ねた。
昔ながらの石積みの家並みが続き、
あちらこちら花木や鉢植えの花々で彩られている。
道行く人々の多くが笑顔で、犬と一緒にそぞろ歩く人も多く、
華やいでいながらも、のどかで優しい空気に満ちていた。
* * *
湖畔近くの小さな広場の真ん中にプラタナスの大樹があり、
良く晴れた昼下がり、大きく枝を広げて日陰を作っている。
そして・・・木陰の向こうに、味わいある帽子屋を見つけた。
何ともフランス的で瀟洒な店構えで、
オーニング・テントの上では、木洩れ日がキラキラと踊っている。
店先には様々な種類が並び、私のような”帽子好き”にはたまらない品ぞろえだ。
中へ入ってみると、一番奥の壁面に大きな窓。
窓辺から覗けば、すぐそこに湖面が迫り、陽光に碧くきらめいていた。
なかなかお目にかかれない店のシチュエーションに、
一瞬にして心を奪われた――
フランス語で「帽子」は「Chapeaux(シャポー)」。
単語を見ていて・・・その響きからなのか、綴りからなのか、
なぜかフッと頭に浮かんだのは、「ショパン(Chopin)」だった。
ショパンは、”ピアノの詩人”と称されて愛されるロマン派の作曲家。
軽快な「仔犬のワルツ」は、よく知られているし、
実は「猫のワルツ」という曲も作っている。
そんな犬・猫を好きであったろう心境に、ついシンパシーを感じて、
テント地に書かれていた店名を「Chopin」にしてみた。
そこで、実際にはこの場所に居なかった、犬たち猫たちのくつろぐ姿を登場させ、
緩やかでほのぼのしたムードを添えてもらおう、と思った。
“幸福な光を浴びる”そんなイメージを表現したかった。
笹倉 鉄平
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