シャーロットタウンの町って・・・
さて、前回は小説「赤毛のアン」との出会いについて書かせて頂きました。今回は、物語の舞台であり、長年の憧れの地であったカナダのプリンスエドワード島を、昨春に初訪問した印象を簡単に・・・
物語が書かれた時代と現代の差、自分自身の変化などの要素を考えれば、当然といえば当然ではありますが・・・想像通り素晴らしかった部分と、当時抱いたイメージとは全く違った部分、その両方がありました。
カナダ東海岸のモントリオールから、小さな小さな飛行機(左右1席ずつ並び、操縦席まる見え、という飛行機が少々苦手な私には冷汗もののフライト)で、プリンスエドワード島の小さな飛行場に降り立ちました。
物語を始めて読んだ頃には、”小さな島の小さな町や村”といった印象と、全体にこじんまりとした規模のイメージを抱いていたのですが、実際には島自体が東京都の約3倍の面積とのことで・・・物語中の「アヴォンリー村(アンが少女時代を過ごす地)」のモデルとなったキャベンディッシュ村は、思っていたよりずっとずっと広大で解放感のある所でした。
上記の”小さな”という印象も手伝ってか、村中を簡単に歩き回れると思い込んでいたのですが、スケール感覚が間違っていたようです。公共交通機関の無い田園風景が延々と続く地を、本当に、本当によく歩きました――お天気が良かったので気持ちは良かったのですが。
それでも、「赤毛のアン」で印象的な記述で綴られていた「恋人の小径」をイメージした木立の中を行く道の周辺は、自然の美しさに満ち、正に当時抱いたイメージのままで心躍る散歩道でした。活き活きと語られていた物語中の描写を思い出しながら、懐かしいような、童心に帰るような・・・胸の奥がジンとなる想いで歩き回りました。
そして、物語の第1巻に2度ほど登場するシャーロットタウンは、実在の町であり現在も島の中心地です。
始めて読んだ時、未だ広い世の中を知らない初心な中学生だった自分にとって、シャーロットタウンは洗練された大都会というイメージの町でした。
島の田舎で自然と共に暮らしていたアンと親友のダイアナにとっても、シャーロットタウンは憧れの都会たる町だったはずです。2人が滞在時に身を寄せていた、ダイアナの伯母の家である通称「ブナの木屋敷」は、町の瀟洒な邸宅として描写されており、私にとっても同様に憧れのお屋敷でした。
今も立派な邸宅が立ち並ぶ高級住宅街(現在は別荘が多いらしいのですが)エリアを訪ねた後、たまたま通りかかって出会った景色が、新作「シャーロットタウン日暮れ前」です。
東京をはじめ近代的な大都会に目が慣れてから訪ねるシャーロットタウンは、もはや中学生当時に大いに憧れた”都会”の姿では勿論ありませんでした。むしろレトロさが心に響き、初めて見るのに懐かしさを覚えるような・・・良い意味で、当時抱いた憧憬のイメージとは違っていました。
そんな町の、いわゆる地元住宅街に在る公園で展開されていた野球に興じる子供らや人々の姿に、アンの時代にもあったであろう長閑な日常の暮らしや平和な空気を思い起こすことが出来て・・・いつの世にも通ずる優しく温かな感覚に不思議なほど心が満たされてゆきました。
そんな安らぎの時間や気分を、絵で伝えられればと願いつつ・・・。
笹倉鉄平