日本の情景、海外の情景

前回のような”一問一答”形式でお答するのが難しく、ここの所とても増えてきている質問があります。
それは、日本や京都を題材にした絵に関することで、例えば「日本の風景は、どういった思いで描いているのでしょうか?」
「海外と日本では、描く時何か違う点はあるのでしょうか?」などです。
最近インタビューや取材を受けますとその辺の質問が多い為、今回はそのお答えを・・・というより、むしろ”その周辺の話”をするつもりで書いてみたいと思います。

まずは、ここ数年日本の作品を時折描いていることに関して、動機的なところから始めます。
月並みな言い方になってしまいますが、日本には他の国には無い独自の美しさや美意識があり、それらに出会い感動すると描かずにはいられない気持ちになってしまう、ということなのだと思います。
そういったモチベーションの部分は、海外で出会った風景・一瞬の光景などに巡り会って描かずにはいられなくなるのと、実は全く同じ感覚であり、制作中の気持ちや手順・技術的なことも含め、なんら変わりはありません。
唯一違うとすれば、日本を描く時には、自分が生まれ育った思い入れのある国への愛着と誇りが、根底にあるという点でしょうか。

しかし私自身も、若い頃は、日本独自の美も特別なものではなく、”そこにあって当たり前”といった見方をしておりましたから、あまり丁寧には見ていなかったのだと思います。
それよりも、(私に近い年代の方々ならば、きっとご理解下さると思うのですが)テレビ・映画・音楽などのエンターテイメントの影響で、むしろ欧米に対する憧れや、逆にコンプレックスもあってか、正直、見知らぬ国々の方向にばかり関心が向いておりました。
ところが大人になるに従い、海外の国々の情勢や文化、経済の色々な情報も目や耳から入ってきて、それぞれの国にそれぞれの良さや問題があるのだと徐々にわかるようになり、色眼鏡の取れた目で日本を見られるようになった気がします。
実のところ、若い頃には、歳をとると趣味が渋くなって”日本的”なものが好きになるのだ・・・などという誤解もしておりました(照笑)。

前回にも少しお話をしましたが、”どの国が好きか”という比較論ではなく、日本には誇るべき個性と美があり、海外の国々もやはりそれぞれにそれらを持っており、決して優柔不断などではなく、私にとってはやはり「どちらも良い」のです。
“国”を描こうとしているわけでもありませんし、好き嫌いや優劣の感情もありません。私は常に、その地方や地域に根ざした「人々の暮らしや営みの一瞬」を通して胸に去来したものを、描きたいと思っているのです。

さて、少々別角度からのお話になってしまいますが・・・

今から20年程前のヨーロッパ諸都市の街並みの様子を思い出しますと、それぞれに現在は随分印象が変わったように思います。
歴史的な建造物や大きな部分での風景は変わらないのですが、小さな建物や店舗・カフェなどは、時代と共に大きく様変わりしてきています。
特にECの成立は、加盟国同士の交流・物流の隆盛もあって、大きな節目だったように思えます。
勿論、いずれも悪いことではないのですが・・・。
例えば、ロンドンや英国のちょとした街では以前、いわゆる”お茶をする”時は、ティーショップやパブに立寄ったものですが、昨今では外資系のコーヒー専門ショップ的な店が随分目に付くようになりましたし、パリでは日本食レストラン(日本人以外の営む店が多く驚きです)が急激に増え、ややもすると、描きたいと思うアングルの中に東洋的な店先が入ってくることもあります。

今はまだ大きな都市だけですが、色々な国の街が少しづつ似てきていることに寂しさを感じています。
今後も、利便性が優位に立つにつれ、世界中の街がどんどん個性を無くしてゆくように思えてなりません。
勿論、文化というものは生き物ですし、便利な生活が実現してゆくことは良いことだということも理解しているのですが、万が一この傾向が進みに進み、グローバルなスタンダード上のひとつの”完成型都市”になっていくとしたら・・・などと考えると、わざわざ旅をして訪ねる楽しみすら無くなってしまうのでは? と、少々オーバーに考えたりもしてしまいます。
人間だって、一人一人個性があるからこその存在であって、皆が似通った外観と考え方になったとしたら、ちょっと怖いのと同じ理由なのでしょう。

また、国際化が物凄いスピードで進む現代だからこそ、国や地方それぞれが、独自の個性と誇り(=伝統)を大切にしてほしいと、心から願って止みません。
地球温暖化に突入する前の、まだスピード優先社会ではなかった時代にあっても、人々は幸せを感じて暮らしていたわけですから、そんなことも忘れないようにしたいものですね。
なんだか、くどい文章になってきて、自分でも言いたいことがわからなくなってきてしまいました。
質問にお答えしていたつもりが、久しぶりに硬い話になって・・・(汗)。

今後も、日本と海外、双方それぞれの良さを分け隔てることなく、私なりの観点で描いてゆきたいと思っています。

笹倉 鉄平

2007

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