ただ今スケッチ中・・・
地球温暖化のせいか、ヨーロッパ各地で、現在天候がいつになく不順の様で、TVのニュース等でもそんな話題をよく目にします。
この季節としては、晴天が続かず雨が多く(先日パリ近郊の町では夕立で雹にまであいました)、屋外でスケッチをするのにも少々苦労しておりました。
さて、ここはパリのセーヌ河岸です。
街の真ん中では人が多い為、短時間で鉛筆描きをするのがせいぜいですが、こういう場所なら人目も気にならず、落ち着けますので、パレットや絵の具などを広げる余裕も出てきます。(地方の田舎町であれば、大概大丈夫なのですが。)
写真の奥に見えている鉄製の歩行者専用の橋は、ポンデザール(=芸術橋)という橋で、その更に奥にある白い石橋は、パリ最古の橋ポンヌフです。
雰囲気も異なるこの美しい二つの橋が、前後に重なって見えるところが気に入り、ちょっと描いてみたくなりました。
そこで、前回このページに書いておりました通り、現地での実際のスケッチの模様を、今回は写真も交えつつお届けしようと思います。
まず始めは、景色を見ながらピンと来た色彩の色鉛筆での線描きからスタートすることが多いです。
経験上、自分の使いたい色はおおよそ既にわかっていますので、普段からお気に入りの10色程度をバラで持ち歩いています。
今回は、橋の構造が複雑で難しく、随分時間がかかりましたが、ようやく線描きが出来上がりましたので、スケッチ講座本風(?)に、使用している道具も並べて写真に撮ってみました。
一般的に、スケッチで定規の様なものを使うことはまずないのですが、こういった建造物や街並みなどを描く際、おおまかな水平・垂直線や全体のパース(遠近法)のアタリ線を薄めに引いたりする為に私が役立てているのが、写真の左下方に写っている金属製の巻尺です。
橋などの巨大な人工的物体を、フリーハンドで描くのは意外と手こずるものですので、これをシャっと伸ばして、直線定規として使って重宝しています。
次は、色づけです。
大抵は小さな紙パレットにアクリル絵具(テーマによっては、固形の水彩絵具やパステルを使うことも・・・)を10色程搾り出し、常に持ち歩いている飲料用ペットボトルから、ビニール製の小さな折畳式筆洗いに水を注いで・・・、今回は太筆と細丸筆の2本だけで、ささっと仕上げました。
それがこちらです。
(画素数の少ないデジタルカメラですので、細かい所や正確な色彩をお見せ出来ず、残念ですが。)
スケッチをしながら感じたのは、もっと右側の方の景色も入れたい――ということでした。
用紙がもっと右へ続いていれば良かったのに・・・ということなのでしょうが、そう考えたことでひらめいた事もありましたし、今後の制作へとまた発展してゆくかもしれません。
この日は、たまたま丸一日近くゆったりと描けましたが、描きたい風景に出会えたのが夕暮れ近くだったりしますと、ラフな線描きで精一杯な場面もあり、帰ってからアトリエで、その時のイメージを膨らませながら加筆したり淡彩を施したりすることも多くあります。
ちょうど今、「ちいさな絵画館」で展示している淡彩スケッチの数々も、現実の風景の色彩というよりも、私の抱いたイメージの色で後から手を入れたものが多いです。
また、スケッチをする度に、その時々のちょっとした閃きや思いつき、構図、色彩の組合せ等、小さな”試み”をするように心がけていますが、それが油彩の大きな作品にフィードバックされることもあり、後になって、「○○○○」の”習作”へと変化する――といったケースもあるわけです。
逆に、淡彩スケッチの方が似合う題材や景色もありますし、あまり描き込まない方がかえってしっくりくる場合もあり、一口にスケッチと言っても本当に様々です。
前回にも述べましたが、目の前の風景や光景を正しく「写生」するというよりも、景色を前に自分の中から湧き上がる「印象」をどうにかして記憶の棚に保存しておきたい、という意味合いの方が強いのだと思います。
例えるなら、勉強をする時に、ノートに何度も書いたり、本や黒板を写し書きすることにも似ていて、スケッチをすることで、単に目の前の景色のみならず、流れている空気感、取り巻く様々な音、その時の自分の気持ち等が、少々時間が経ったくらいでは褪せない記憶として刻まれてゆき、残されたスケッチを見るだけで、それらが全て鮮やかに心に蘇ってくるわけです。
以上、ここに書いた事は、あくまで”私流のスケッチ”の紹介で、描く人それぞれの方法論・考え方があるでしょうし、その方が自然です。
スケッチに、正しい方法とかより良い方法とか、決め付けるべき事柄は何も無いのだと思います。
皆さんも、旅先で(否、のみならず近所でも)、時間的な余裕がもしも取れたなら、小さな紙に手近なものでスケッチをしてみてはいかがでしょうか?
上手いとか下手とか全く関係なく、新しい発見が出来たり、自分自身をその時の空間ごと、そこに留めることが出来るかもしれません。
笹倉 鉄平