アトリエの音楽

ようやく春らしい日が続くようになり、冬の間中縮こまっていた身体も弛むようで、気持ちもやわらかく軽くなるような今日この頃ですね。

さて、このところ、2月にリリースした作品「フロム・ザ・パスト」についての感想をメールで沢山いただいて、本当にありがとうございました。
「あっ、僕と同じような考え方の人がいるんだなぁ」とか、「ちゃんと伝わっていて嬉しい」と感じたり、「若い人にはこんなふうに感じるのか」と教えられたりして、結果、やはり描いてよかったなとしみじみ思いました。
そんな、お一人お一人にメールの返事を書きたいと、読ませて頂きながら思うのですが、数的にも時間的にも、とても不可能なことですから、せめて、多い質問からお応えして行こうと思います。

さっそく今回は、前回のお約束通り目立って多かった質問で「どんな音楽を聴きながら絵の制作をしているのですか?」についてです。
10代の頃から絵と音楽が大好きでしたから、これまで時代の流れとともに色々なジャンルの音楽を聴いて来ました。
その中で、アトリエで流す音楽となると少し傾向があるように思います。(・・・などと、今ごろ分析しながら書いているのですが・・・)

静まりかえったアトリエに一歩足を踏み入れた時、部屋中にピンと糸がはりつめられているように感じてしまって、(そんな緊張した気持ちでは自由な発想も出てこないし、絵筆の動きも固くなるものですから・・・)とりあえず何かやわらかい音楽を流します。

ここ数年、この役目をしてもらっているのは「ボサノバ」がとても多く、流れはじめたとたん、空気中の緊張の糸はまるで綿菓子のアメのようにフワッととけて消えるような感じがします。

僕の好きなカエターノ・ベローザも「沈黙よりもいいのはジョアンの曲だ」と云っているように、ジョアン・ジルベルトのギターとつぶやくような歌は、まさに部屋中の空気をやわらかくしてくれますので、どのアルバムでもいいですから是非一度聴いてみて下さい。

また、人の声よりもギターの音だけが聴きたい時があって、そんな時には、バーデン・パウエルもおすすめです。(「テンポ・フェリス<幸福な時>」という曲が僕はとても好きなのです。)
他にも、ルイス・ボンファやスタン・ゲッツなど・・・・・仕事中にもボサノバはよくかけています。
コードのキーが半音ずつ下がっていく独特の曲調は、肩から余分な力が抜けて行き、解放されて行きます。

邦楽でもこの解放感は「小野リサ」さん(近頃出たアルバムの中では昔からのスタンダード曲を集めた「ドリーム」がおすすめです)とか、快適な感じは「ゴンチチ」さん(たくさんCDが出ていますが、どれもイイですよ。)をよく聴いています。

その他、変わったところでは、川のせせらぎの音や鳥の声など自然の音だけのCDも時々かけています。

総合してアトリエでは心安らぐ音楽が圧倒的に多いようです。(でも、たまには気分転換にヘビーでハードなロックを聴いて快適になれる時もありますが・・・)

そんな中、CDがいつのまにか終わっていて、その後長い間気づかずに絵を描いていた・・・ということがよくあります。
僕が音楽から絵の世界に入り、その中で遊んでいたのでしょう。この時はとても嬉しく感じるのです。

・・・まだまだ音楽については書き足りないので、続きはこの先いつかまた書かせていただくとして、次回はおそらく海外からのお便りになると思います。
では。

笹倉鉄平

2001

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