英国人の鉄道愛
新作の「セトル鉄道駅」―――今回ようやく描くことが出来た鉄道駅の絵です。
実は、かなり以前から”駅”の情景を描きたいという想いは持っていたのですが、出来れば…発祥の国であり鉄道に愛着を持っている国イギリスで、”駅”をちゃんと油彩で描きたいと思っていた為、いい機会が無かったのでした。
旅の間に読んだ、ものの本によりますと・・・
実用目的で運行管理された世界初の鉄道路線として、リバプールとマンチェスター間で蒸気機関車による運行が、1830年に開業したとのこと。
その後、利便性は無論のこと投機的なブームなどもあって、大都市間を結ぶ鉄道網や地方路線網が1840年台には出来上がりますが、1920~30年代以降は、戦争や自動車中心のライフスタイルへの変化などにより、旅客の少ない路線の施設・車両の荒廃や、ローカル支線の廃線が目立つようになります。
そこで起こったのが”保存鉄道(heritage railway)”の動きです。スタートは、やはりイギリスからでした。
1951年、廃線となっていた「タスリン鉄道」を、鉄道ファンの団体によるボランティアの手だけによって再び運行させたのです。
これが、鉄道の保存運動の始まりの一例だそうです。
そうした廃線路線を、ボランティア(=その路線のファン)が組織する団体によって復活・継承運行させて、観光施設として成り立っている鉄道が一般的に”保存鉄道”と呼ばれています(行政や地元の自治体等が営利運行している路線とは異なる)。
その為、当時のままの姿での運営にこだわっているようで・・・
駅舎は勿論、蒸気機関車時代を偲ばせる小物が置かれていたり、それぞれの路線ご自慢の蒸気機関車や昔の客車を走らせていたりします。
現在では、その路線数はイギリス国内だけでも100を超え、この運動はヨーロッパやアメリカなどにも広がっているようです。
さて、新作「セトル鉄道駅」の舞台は、イングランド北部のヨークシャー・デイルズという国立公園を突っ切って、セトルの街とカーライルの街を結ぶ保存鉄道路線”セトル・カーライル鉄道”の始発駅です。
同じ路線の先に在るアップルビーという駅へも行ってみたのですが、そこの駅舎の屋根の切妻飾りがとても可愛らしかったので、絵ではセトル駅の右側の建物(待合室)の切妻飾りを、そちらに変えて描いてみました。
そんな風に、保存鉄道それぞれの路線が、駅舎のイメージや陸橋のデザインや色彩など異なる個性や工夫を活かしつつ運営されているようです。
これまでに、いくつかの保存鉄道路線を訪ねてきましたが、いずれもボランティア団体で営んでいるとは思えない見事さです。
古いけれど状態の良い蒸気機関車が現役で走る姿、年期は入っているけれど花で飾られた清潔な駅舎、当時を偲ばせる雰囲気づくりや工夫・・・
そして言うまでも無く、廃線の憂き目にあって壊れ、痛んだ線路・機関車・客車・駅舎などの全てを、募金で買い取り修理して昔日のままに戻して再び運行させるまでの努力・・・その情熱と愛情に強く心打たれるものを抱きながら描いた作品でもありました。
保存鉄道で働いておられたボランティア――機関士、車掌、駅員、切符窓口の係員etc.――の方々のキラキラと輝いていた笑顔が忘れられません。
笹倉鉄平