京都、上ル下ル・西入ル東入ル
この度リリースされました「続いてゆく・・・」は、京都の中心部、碁盤の目のように通りが交わる、いわゆる「田の字地区」の中に点在する実在の老舗を3軒ピックアップして、並べて描いてみた作品です。
京都の中心部辺りというのは、京都の人にとっては、縦・横の通りの名前さえ分かればなんとなく”あの辺り”と大概の見当をつけられるエリアのようです。
というのも、子供の頃から、通り名の並び順を編み込んだ童歌を歌う等して、楽しく習い親しんでいるからのようです(有名なのは、東西の歌が「丸竹夷(まるたけえびす)」、南北の歌が「寺御幸(てらごこ)」)。
京都の住所で、よく目にする”上ル・下ル・西入ル・東入ル”というのは、(碁盤の目状の通りをX軸・Y軸で見た場合)それぞれの通りが交差する地点から、北へ”上ル”のか南へ”下ル”のか、または”東へ入る”のか”西へ入る”のか、を表しているのです。
ようやく私も、通り名の表記を見たり聞いたりしただけで、その周囲の風景が何となく目に浮かべられるようになってきました。
ただ・・・京都の街なかは、人口が多いのに”○丁目○番地”という短い住所表記を用いていないので、公的な文書には『南北・東西の各通り名の表記+(昔からの)町名+番』の全てを書かなければならず住所がとても長~くなってしまいます。そんなこともあって、”全国区の”書式に公式住所を書きこむ際に、欄が狭くて苦労する、という話もよく聞きます。
『町名と番』だけの記載ではダメな理由はちゃんと有り・・・中心地には同じ名前の町が複数存在し(例えば「亀屋町」という名前は5ヵ所…等)、町名+番のみでは場所の確たる特定ができないのです。そして、同じ町名であっても飛び地等ではなく、それぞれに起源と謂れが存在する、全く違う町なのだそうです。
また、平安京を起源とした歴史を紡ぎながら続く地だけに、昔からの町名をそのまま生かしている所が多い為でしょうか・・・漢字が読めない町名や変わった町名も多く、地図を見ているだけでも飽きなかったりします。
『天使突破町』という町名を偶然見かけた時には、”一度聞いたら忘れられない町の名前だ!!”と、感動すら覚えたものです(笑)。
また、町を歩いていて気付くのは、織物や着物関係の商いをされている所が大変多いことです。そういった関係の店舗を「イトヘン(糸)の店」等と言い表したりするのが、なんとも京の都らしい表現ですが・・・そういったイトヘンの商家が多いエリアの町名は、やはり「衣棚町」「帯屋町」「織物屋町」等とあります。昔の町角の面影が偲ばれて、良いなぁと思います。
さて、ついでに、よく他府県の方に訊かれる質問。曰く、右京区と左京区が、地図で見ると右・左が逆ではないか?・・・と。
これは、市街中心部の北側(地図でいう上)に在る「京都御所」からの視点で南側に広がる町の方を見た場合、(地図の)右側が”左京”、左側が”右京”となるから・・・なのです。かつて”天皇の座所”だった名残なのでしょう。
こうした住所の表記一つ取ってもなかなかに興味深い、”千年の都”京都の不思議な魅力は、昨今では海外でも広く認められるところとなっているようです。
アメリカで出版数100万部を誇る「トラベル+レジャー」という観光旅行雑誌の読者ランキングで、「Kyoto」は年々順位を上げて、昨年ついに「ワールド・ベスト・シティ」第一位となりました。
昨今、日本文化が世界から注目されると同時に日本人気が高まっているのも、こうした結果を聞くのも、日本人として何となく嬉しいものです。
ちなみに、同ランキングの第三位は、イタリアのフィレンツェとのこと。
そして・・・めでたくも、その二都市が、姉妹都市となって今年で50周年を迎えました。
笹倉鉄平