オイル・パステル画「光めざして」の制作過程

過日、ジクレー版画としてもリリースされました当作品。
描き始めから仕上がるまでの過程を、画像にてご覧いただこうと思い立ちました。
(久しぶりで大きめの絵を描く…ということで、途中々々の画面の画像を残しておりました。SNSで何回かに分けて紹介していたのですが、こうしてまとめた方が分かりやすいかもしれませんね)

今から8年前、イングランド北部・東海岸の港町ウィットビーを訪ね、魅せられた風景がありました。
帰国後、スケッチ等を参考にしながら、キャンバスに下書きまではしたのですが…「何かが足りない」と感じ、ずっと放置されておりました。ところが最近、その足りない「何か」にようやく気付けたのです。
――今の心境だったら描ける、という想いがスタートでした。

(①~③ 画像上部には未だ何も描かれていない為、カットしています)

① 横型キャンバスで放置していた下書きを、今回は縦置きの紙ボードにバランスを調整しつつ書き写しました。
② 手前の人物の存在感が強過ぎるように感じ、小さく遠い位置に書き換えました。
③ 全体の雰囲気をつかむべく、まず暗い部分に色鉛筆でザッと陰影をつけてみました。

ここ一年程、脊椎症のため右腕が痺れて思うように描けなかったのですが、ようやく少しずつ描けるまでに回復しました。
そんな喜びを――指で直接、紙に触れて描けるオイル・パステル(いわゆるクレパスの様な画材)で、表現したいと思いました。
空や海など広い場所には、主にフランス製の柔らかいものを使っています。オイル・パステルは、メーカーによって油と蝋の配合が異なるため、色や硬さが異なるからです。ちなみに、この絵には4社の製品を使用しました。

④ 硬めのスイス製パステルで、最も暗い部分から描き始めました。
⑤ 次に暗い場所を、国内メーカー品で少しずつ塗っているところです。
⑥ 全体のバランスを考えつつ、家々や石段、遠くの港や防波堤などの色調を決めていきます。

遥か水平線を見渡せる丘の上まで、199段ある石段を、朝・昼・夕方・夜と色々な時間帯に登り降りしました。
実は、この絵の太陽と雲は、まったくの想像で描きました。実際には、朝陽はもっと右から登り、夕陽はずっと左の方へと沈みます。
心が求めていた“希望の光”を、太陽に託して表現したかったのです。…ので、ご覧いただく際には、早朝の景色としてでも夕景でもご自由に、気分次第で…。

⑦ 海や港、家々に色を塗っていくうち、空のイメージも徐々に固まってきました。
⑧ 雲は、手前から向こうへと動いている感じを出したくて…構図上のバランスを考え、石段を逆さまにした様な形にしました。
⑨ 全体の濃淡バランスが見えてきたところで、カモメを描き入れました。“自由に飛びたい”気持ちの代弁者として、最初から描こうと決めていました。
⑩ 完成。①~⑨までと⑨~⑩までは、同じ位の時間を要しました(パッと見の変化は少ないですが)。
⑪ 仕上がり間近の雲の部分拡大です。多くの色の線を重ねているのが分かりやすいと思います。
⑫ オイル・パステル(制作途中の机の上)です。

さて、冒頭に書きました「何かが足りない」と、下書き途中で8年もストップしていた理由ですが――
体力はピークを過ぎ、正に“下り坂”を意識し始めた、あの頃。当時の私は、この“下る階段”に抵抗があったのだと思います。
今になって思うのは…下りながらでも前方向へと進み続ければ、あの美しい光あふれる海辺に近づいて行ける、ということ。足りなかったのは「現実を認め、受け入れる気持ち」だったのでしょう。
苦しいことでも過ぎてみれば、ポジティブに捉えられる術(すべ)が備わる気がします。マイペースであっても、とにかく前へ向かって。

美しい光の表現をめざして、これからも――

笹倉鉄平