アトリエや旅先から届いた、笹倉鉄平のメッセージを掲載しています。

アトリエから

2009年10月06日/カフェの思い出いろいろ

100万アクセス記念に、たくさんのメールを頂戴し、本当にありがとうございました。
平素からよく送って下さっているお馴染みの方から「初めまして」の方まで、また、長い文から短い文まで内容もヴァラエティに富み、新鮮な気分で全て読ませて頂きました。

そんな中、新たな質問などもいくつかお寄せ頂いておりましたので、これから折を見てお答えしていこうと思っておりますが・・・今回は、これ『カフェがお好きとの事ですが、最も印象に残っているカフェはどちらでしょうか?』です。
091006shade.jpg『シェイド』 1998年制作この方は『・・・とある海沿いの絶壁に建つカフェでのお茶が一番記憶に強く残っています。』と書いておいでです。
そんな文章を読みながら、私の頭にまず思い浮かんだのは・・・ギリシャのサントリーニ島の玄関、フィラの街で、紺碧の海に落ち込む絶壁にへばりつく様にして在ったカフェでした。

もう店の名前は忘れてしまいましたが、確か・・・「シェイド」という絵の正面奥に描いたカフェの、右側にあった階段を少し下ったところにあった様な気がします。
また同じ地中海では、ミコノス島の海沿いにあった一軒もやはり気に入って、「ミコノス・カフェ」という作品を描きました。

留まることなくその表情を変え続ける海や空を眺めてのお茶は、滅多に味わうことが出来ない、貴重で得難い至福のひと時です。
海だけでなく湖や池や川沿いなどの水辺にカフェが在ると、どうやら無条件に気に入ってしまう様で、今までにも色々な国、多様なシチュエーション、様々な画材で、絵に描いてきています。

例えば・・・「白い時間(とき)」という絵は、イタリア・リヴィエラ海岸沿いの町アラッシオの浜辺に在ったカフェで、目前に広がる風景を眺めつつ、頭に浮かんだイメージをメモ程度にスケッチしていたものから出来た作品です。

「夢の解放」は、シチリア島・タオルミナという町の<四月九日広場>の教会の中にあるカフェで聞いていた、ピアノの演奏に触発された想いを絵に描いたものです。

雨宿りに飛び込んだカフェで出会った犬は「うたた寝」になり、同じ様な状況で窓から眺めていた景色は「みんな雨の中」となり、冬の寒さに手がかじかんで、暖を取る為にカフェに駆け込み、それがきっかけで生まれた絵もあり・・・と、"災い転じて"系(笑)も割りとあります。

どんなに見知らぬ土地へ行っても、珈琲一杯にテーブルと椅子を得てその席にいる間、ちょっとしたアトリエ代わりにもなってしまう"カフェ"の存在は、(景色の良い場所ならば尚更に)本当にありがたいものなわけです。

091006cafe_kappeli.jpg『エスプラナディ公園のカフェ』 2009年制作そんなわけで私の場合、旅先でのカフェは、珈琲の味は二の次で"眺め"と"雰囲気"さえ良ければ・・・という本末転倒な探し方になってしまうようです。

さて、こうして振り返ってみますと・・・今、この文章を書きながらも、ただの"カフェ好き"以上に、自分にとってはかなり重要なものだったという事実に改めて思い至りました。

上記の他にも、フィンランドの公園の中にあった、まるでガラス張りの温室の様なカフェ、イギリス北部で古い水車小屋の2階を改造したカフェ、また"画家たちが溜まり場にしていた"という様なカフェも、旅先各地で訪ねたりしていますし・・・

と、思い起こせば印象深いカフェは次々頭に浮かんできます。

それでは、質問にございました『最も印象に残っているカフェ』は?

・・・あえて一つを挙げるとすれば、ここしかありません。

それは、東京の中央線沿線・国分寺駅南口に在った<寺珈屋>という、学生時代に常連になっていた喫茶店です。

何かにつけ足繁く通い、今も珈琲(やカフェ)が好きなのは、ここでの体験があったからに違いないと思っています。

髭のマスターやカウンターの中にいるアルバイトの友人たち、他の常連客たち・・・店に行けば、必ず誰か知り合いに会える場所でした。また、壁に掛けられている沢山の古時計の針がさす時間はバラバラで止まっており、木の温もりを感じるレトロな内装が醸し出す独自の空気の中、挽きたての豆の香りを楽しみながら、本を読みながらぼぉっとして過ごす時間の心地よさもここで知りました。

気恥ずかしい話ですが、当時の店でのワンシーン・ワンシーンが、大切な絵の様に青春の一ページの中に残されている気がします。

*       *      *        *       *

さて余談になりますが、この喫茶店の地階に一軒のジャズ・バーが在りました。

お酒に強くないのに時たま行きたくなってしまう様な雰囲気の良い店で、時々お邪魔していました。

口数少ないマスターの薦めで、オイルサーディンの平たい缶詰を開けてそのまま火にかけ焼いたものを肴に、フォーローゼスのグラスをちびちびと傾けていたものでした。

優しそうなマスターは「僕、小説を書いているんです」と穏やかに話しておられましたが・・・彼こそ、(デビュー前の)今をときめく村上春樹氏その人だったのでした。

店名は<ピーターキャット>と云い、今でも鮮明に憶えているのは、店のマッチ箱の絵が"チェシャ猫"(木の枝の上でニタリと笑っている「不思議の国のアリス」に出てくる有名な猫)だったことです。

「アリス」の猫なのに、なぜ<ピーター(キャット)>なのだろうか?同じ英国生まれということで、「ピーターパン」からとった?もしくは、やはり英国生まれの絵本のキャラクター「ピーターラビット」から???

などと、いつもとても不思議に感じていたのですが、当時マスターに直接訊きそびれてしまったのが今となっては残念でした。

(ずい分後になって、飼い猫の名前が<ピーター>だったからだとウワサで聞きました。)

これらの店は、今はもうありません。

・・・少しだけ寂しい気持ちもありますが、"それもまた良いのかもしれない"と思えてしまう年齢になりました。

笹倉鉄平

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